世界最大のクリケット大国、インド。世界最大のクリケット市場はインドにあり、クリケットという競技自体はインドが中心に回っていると言ってもいいでしょう。
セポイの反乱をきっかけに広まる
インドでのクリケットは歴史が古く、1700年初頭にすでにプレーされていたと言われています。インドに移り住んだイギリスの行政官、貿易商人、軍人などがクリケットをプレーしていました。当初はインドに移り住んだイギリス人の娯楽としてプレーしており、現地のインド人には広めていませんでした。
ところが1857年に「セポイの反乱(インド大反乱)」が発生。イギリスの植民地支配に対しての民族的反乱は、インド全土に拡大するまでに発展しました。2年後の1859年にイギリスが鎮圧し、紛争後はインドをイギリスが直接統治することになりました。
紛争後のイギリスは、イギリス人が直接統治するのではなく、インドの地方を治める支配者層(マハラジャ)を名目上統治させることにしました。イギリスに忠実な協力者として育て上げるために、インドの各地にパブリックスクールを建設し、イギリス流の英才教育をインドの支配者層に植え付けていきました。
パブリックスクールでは、イギリスの名門校でプレーされていたクリケットが含まれており、クリケットは支配者層に広まっていきました。
ランジットシンジ
イギリス流のインド統治によって、インドのクリケットの名選手、クマール・シュリ・ランジットシンジ(1872-1933)が生まれます。
現在のグジャラート州に生まれたランジットシンジは、ラージクマール・コレッジを卒業後にイギリスへ渡り、ケンブリッジ大学へ進学しました。クリケットの才能に恵まれたランジットシンジは、大学のクリケットで活躍し、のちにイングランド代表になりました。即興性があふれるバッティングにより「東洋の魔術」と呼ばれ、イギリスで最も有名なインド人になりました。
イギリスのメディアは、ランジットシンジを「イギリスとインドの友情のシンボル」として祭り上げました。第1次大戦時の募兵キャンペーンのアイコンとなり、イギリスとインドの双方の絆を作り上げる存在になっていました。イギリスにとっては、インド統治のために最も理想的な「協力者」が、クリケット選手のランジットシンジでした。
ランジットシンジの死後、毎年年末年始に行われているファーストクラスクリケット(テスト方式)の大会は、彼にちなんで「ランジ・トロフィー」と名付けられました。
ボンベイで活性化
セポイの反乱をきっかけに、インド人に広まっていったクリケット。支配者層のみならず、ゾロアスター教の信者であるパールシーの商人にも広がり、のちにパールシー同士で都市別対抗戦を行うようになりました。
優秀な商人として知られたパールシーからもクリケットは広がり、ヒンドゥー教、イスラム教、シク教などのコミュニティにまで広まっていきました。1911年にはインド代表形成し、イングランドへ遠征へ行くことになりました。
19世紀末期のボンベイ(現ムンバイ)では、多数の移民を抱えていました。宗教やカースト、企業などのチームが次々と作られ、ボンベイでは支配者層やイギリスの企業がスポンサーになり、対抗戦が行われるようになりました。特にボンベイのイギリス系企業のチームでは、インドの社会的出自には寛容だったため、カーストが低いクリケット選手にもチャンスが与えられました。
20世紀にはいると、メディアの発展により、クリケットはインド全土に定着し、国民的なスポーツとして親しまれるようになります。最初は英語で伝えられていたクリケットだが、次第に現地語のヒンディー語にも翻訳されるようになり、クリケットが更にインド全土に広まったとされています。
第二次大戦後、インドはイギリスから独立。すでに大衆文化としてクリケットが定着していたインドでは、ボリウッド映画と並ぶ娯楽産業として発展しています。
インディアン・プレミアリーグ
インドのクリケットで欠かすことができないのは、2008年から始まった「インディアン・プレミアリーグ((IPL)」です。

短時間で試合が終了する試合方式「トゥエンティ20」が2005年に生まれてから、世界のクリケットシーンは観客が増加し、放映権料も上がりました。
そこで2008年にインドクリケット評議会(BCCI)は、IPLを設立。インド国内外の企業が投資し、世界最高のクリケットリーグとして注目を集めるようになりました。年々成長をし続け、2023年1月現在では平均観客動員数が33,000人を超えるほどになっています。
2022年の決勝戦では、11万人を超える観客を動員したIPL。アメリカのNFL、イングランドのプレミアリーグなどに迫るほど、急成長をしています。
イギリスで生まれたクリケットは、現在ではインド人のハートをつかんでいます。爆発的な人口と圧倒的な人気を誇るインドを抜きで、クリケットを語ることはできません。
クリケットはまさに「インドが中心に回っている」世界と言えるでしょう。
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